ブドウの精の滴

グラッパ

 
 
吉村喜彦 = 文岡倉禎志 = 撮影バー武蔵(銀座) = 協力
 
 
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絞りかすから生まれるグラッパは庶民の味方。イタリアでは、バールなどでも気軽に飲まれている。

 イタリア特産の蒸留酒グラッパは、ワインをつくるときに出るブドウの搾りかす(ブドウの皮や種子、果軸など)から蒸留されてできる。フランスのマール、スペインのアグアルディエンテなどの蒸留酒も同じ製法だ。

 グラッパという名前の由来には二つの説がある。一つは、北イタリア地方で「ブドウの房」を意味するgrappoloという言葉からという説。もう一つは、ヴェネティアの北西にあるバッサーノ・デル・グラッパ(グラッパの山の下)という町の名前からくるという説だ。

 グラッパはすでに中世の頃(10世紀)から珍重されていたらしい。中世といえば錬金術、錬金術といえば蒸留酒、ということでれいの不老長寿の妙薬づくりと関係している。ただ、金持ちたちは美味いワインと、そのワインを蒸留した酒(ブランデー)を飲んでいただろうから、自分たちが育て上げたブドウでできたワインを飲めない農民たちが、後に残ったブドウの搾りかすから酒を蒸留し、グラッパを生んだのだろう。ここに、ブランデーとグラッパの出自の大きな違いがあるわけだ。

 20世紀初頭まで、グラッパはつくられたその土地だけで味わわれていた。荷車に手製の蒸留器を乗せて、ブドウの搾りかすからグラッパをつくるべく家々を回る光景も村ではよく見られたそうだ。グラッパはあくまで庶民大衆の力強い味方なのだ。

 だから、繊細微妙なコニャックの味わいに比して、グラッパには剛直な野趣が感じられる。口に含むと若々しいブドウの土っぽくてエロチックな香りがたってくる。このちょっと癖のある匂いがたまらない。いわば、グラッパは「霜降り肉」に対する「モツ」の位置づけにあるのかもしれない。

 かつてグラッパは複数種のブドウの搾りかすを混ぜて蒸留していたが、現在は単一種のブドウ(たとえばマスカットやカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、ネッビオーロなど)から蒸留されるものもある。ほとんどのグラッパは蒸留後すぐに瓶詰めされて市場に出される透明な「グラッパ・ビアンカ(白いグラッパ)」だが、オークやサクラ、アカシアなどの木樽で熟成させたグラッパも増えてきている。

 友人のバーテンダー・松浦隆二さんは「最近は、ピエモンテのガイヤやトスカーナのサッシカイアのように、優れたワイン・メーカーがつくる上品な味わいのグラッパが流行っています」と言う。

 グラッパはストレートで飲むのが基本。イタリア料理店などでは食後酒となっているが、冬の北イタリアを旅したとき、おじさんたちが寒い朝にバールでクイッと一杯やっている光景を見て、たまらなく格好良く、しかも、美味しそうだった。

「エスプレッソにグラッパというのもよくやりますよ。まずはエスプレッソをそのまま楽しみ、そして、砂糖を入れて溶かしきらずにザラメが残るくらいのところにグラッパを注ぎます。これを一気にザラメともども飲む。これでエスプレッソは完成すると言われています」

 レモンやカシスのシャーベットにグラッパをかけて食べると、これがまた大人のデザートになる。酒飲みになればなるほど周縁の酒に行き着くが、グラッパはその最たるものだろう。

 
 
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