ソムリエもハマる自然なおいしさ、大地のパワー

世界で人気"ビオ・ワイン"ってナニ?

 
 
 世界中で多くのソムリエやワイン愛好家を
 虜にしているワインがある。
 自然な農法で育てたブドウを自然な製法で仕上げる
 "ビオ・ワイン""ヴァン・ナチュール"などと呼ばれるもので、
 日本でもファンが急増中だ。
 まろやかで自然な味に魅せられた5人のプロに、
 その魅力や楽しみ方、お薦め銘柄を挙げてもらった。
 
 
加藤みゆき = 文石井雄司 = 撮影
 
 

「ビオ・ワイン」、「ビオディナミ・ワイン」、「ヴァン・ナチュール」、あるいは「自然派ワイン」という言葉をご存じだろうか? 最近、ワインショップやワイン雑誌などで見かけることが多くなった言葉だが、その虜になったワイン好きやソムリエが急増中だ。

 ワインバー「祥端」(しょんずい)、「グレープ・ガンボ」のオーナーの勝山晋作さんはヴァン・ナチュール歴15年以上。「ヴァン・ナチュールには得も言われぬ味わいがある。一度このワインを知ったらもう離れられない」と言う。自然派ワインにこだわるビストロ、「ル・セップ」をプロデュースしたソムリエの渋谷康弘さん、現地のビオディナミ生産者の情報に詳しい「山仁酒店」の大橋健一さんも「プライベートで飲むのはほとんどビオ。ワインのテイスティングでどんなに体が疲れていても、こういうワインだったら飲みたくなる」「癒し系のワイン」と、口を揃える。

 フランスではパリ最大のワインショップ「カーヴ・ド・オジェ」で扱うヴァン・ナチュールの数がここ2年間で激増し、ヴァン・ナチュールを出すワインバーやビストロが大流行だという。

 では「ビオ・ワイン」とはどんなワインなのか?

 フランス国内では90年代以降、他の農作物と同様にブドウ栽培にビオロジックな方法などをとり入れる者、ワイン造りに自然な造りを試みる者が続々現れ、特にここ1〜2年はその変化に拍車がかかっている。フランスだけでなく、世界中のワイン産地で、より"自然な"ブドウ栽培、"自然な"ワイン造りを目指す動きがある。

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自然に栽培したブドウを使い
自然に造ったワインが本物

「ビオワイン」すなわち「ビオロジック・ワイン(オーガニックワイン)」は有機農法のブドウで造ったワインのこと。欧州では「ビオロジック」という言葉はワインだけでなく、農作物やそれを加工した農業製品に対して使われ、ビオロジックか否かは、1991年のEU指令で欧州15カ国共通の基準が定められている。このEU指令以外にもビオロジックかどうかを認定する団体が100以上活動しており、世界中の作物に認定証を発行している。

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入門者お薦めのロワール・ワイン。右からトゥレーヌ・ブラン・ビュイソン・ピュイユ2000、アンジュ・ブラン・ラ・リュンヌ2000、ボージョレ・ヴィラージュ2000、エヴィデンスVdT1999。

 公的な認証ではフランスの「ABマーク」(有機農産物の公式品質保証マーク)、民間では世界最大の団体であるフランスの「エコセール」、ドイツの「デメター」が有名だ。「ビオディナミ」(英語ではバイオダイナミックス=生体力学)は、法的には「ビオロジック」の一種で、さらに規定が厳しい。

 ビオロジックの農業製品は、生産過程で、添加物を許可されていないのだが、ワインの場合は例外とされている。つまり、ブドウがビオロジックで栽培されていれば「ビオロジック・ワイン」、「ビオ・ワイン」と表示できる。ワインの醸造過程である種の添加物が必要とされているからだ。

 これに対して「ヴァン・ナチュール」は自然に造られたワインという意味のフランス語だが、ビオロジックよりさらに踏み込んだ考え方をしている。日本で「ビオ」と呼ばれているワインも、実はヴァン・ナチュールのことを指している場合が多い。

 フランス・ローヌ地方のヴァン・ナチュールの先駆的生産者のもとでワイン造りを学び、「ギガル」の栽培長も務める大岡弘武さんによると、「『ビオロジック』にせよ、『ビオディナミ』にせよ、いくら健全にブドウを育てても、そのブドウからとった果汁に糖分を補ったり、酸化防止剤を多用してワインを造れば、その味わいはヴァン・ナチュールのそれとはかけ離れたものになる」。

 ヴァン・ナチュールの造り手たちは、可能な限り自然に育てたブドウに一切添加物を加えずに、天然酵母による自然なワイン造りに励んでいる。もちろん、自然な造りに耐えられるだけのパワーがブドウにあるからこそ、ヴァン・ナチュールができるのだが……。ただ、彼らの中には政府や認証団体の与えてくれる「ビオ・ワイン」という肩書きにこだわらず、あえて認証を取らない者もいる。

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抜栓後1カ月たっても
ふくよかさを保つワインも

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南仏も注目の地域。右からコスティエール・ドゥ・ニーム2000、ブーシェ・デュ・ローヌ・ブラン・クレレットVdP2000、クローズ・エルミタージュ・プランタン2001、コトー・デュ・ランドック・シラー・レオン1996。

 しかし、安全だという理由のみでヴァン・ナチュールを飲んでいる人は少数派。何よりその味わいが魅力なのだ。具体的な魅力を見てみよう。

● やんわりとした滋味と純粋な果実味

 だしの素を使ったお吸い物を飲み続けた後に、昆布と鰹節でだしをとったお吸い物を飲んでしみじみ感じるおいしさ、あるいは精製塩と人工的なエキスが入ったスープを使ったトマトソースを食べ続けた後に、粗塩とブイヨンを使った無農薬の完熟トマトソースを食べて気づく純粋なエキスのおいしさ。ヴァン・ナチュールのおいしさは、これらに相通じている。

 やんわりと体に伝わる滋味、余韻に感じられるデリケートなバランスをもつ純粋な果実味は一度経験すると忘れられない。数多くのヴァン・ナチュールを扱う神戸「ベリエ」の達可仁さんと東京「ワイナリー和泉屋」の新井治彦さんは、「繊細で和食にも合う」、「新鮮なブドウジュースのようだ」と表現している。「人工的なニュアンスが微塵も感じられない」(勝山さん)香りの純粋さも魅力だ。

● 色は薄いがエキスは濃い

 無理な色素抽出をしないため、色が薄いことが多い(特に赤ワインの場合)。色が濃いワインだけがエキスが濃いと考える人は多い。だが大半の通常のワインと異なり、たとえ色が薄くても、口に含むと驚くほど凝縮されたエキスが感じられるものが多い。

● 濁っていても旨味がある

 ヴァン・ナチュールは、ブドウが本来育まれていた自然の恵みを残そうと、濾過機を通さないことが多い。だからワインが濁っていても、品質は悪くはない。むしろヴァン・ナチュールの虜になった人はもやもやの旨味を喜ぶのだ。「ドブロクみたいなワインもエキス分が体にすんなりと吸収される」(大橋氏)。

● 飲みすぎても頭が痛くならない

 科学的に立証されていないが、ヴァン・ナチュールのワインは量を飲んでも、翌日頭が痛くならない。これはワイン通の間では定説だ。実際、フランスでは、頭が痛くならないという理由でヴァン・ナチュールをわざわざ買い求める人もいるらしい。

● 驚くべき自然のパワー

 醸造過程で酸化防止剤がほとんど使われていないため、酸化しやすい=もちが悪いと判断されがち。ところが、ヴァン・ナチュール最大の不思議がここに潜んでいる。コルク栓を抜いても冷蔵庫で保管さえすれば、1週間は軽くもつのだ。なかには1カ月以上たってもふくよかさを失わないワインもある。家庭でワインを楽しむわれわれにとって、なんともうれしい話ではないか。

「コルクを抜いたらできるだけ早いうちに飲んでしまおうという心配は無用。赤、白1本ずつ、毎晩少しずつ飲めばいい。冷蔵庫にいつも数本ストックするのも楽しい」(大橋さん)。

● 未知の可能性を秘めたワイン

 ヴァン・ナチュールは瓶詰め後、熟成していくのだろうか? これに関しては意見も分かれたが、ここは何よりも勝山さんの実体験がその答えになりそうだ。

「今年飲んだマルセル・ラピエールという造り手の90年もののボージョレは透明感があり、あくまでもなめらか! それについ最近ダール・エ・リボという造り手の95年もののクローズ・エルミタージュ・ブランを黙って出したら、ブルゴーニュの極上白ワインと間違えた人が何人もいた。実はこのワインは日本に入荷直後はグラスに注ぐと色がたちまち褐色に変わり、扱いが難しいなと思っていた。できるだけ環境を変えずに静かに保管しておいたのだが、今年になって飲んでみて、以前は感じられなかったふくよかさがぐっと出てきて、変化の大きさにびっくりした」。

 ヴァン・ナチュールの中には化けるワインがあるらしい。

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品質は高いが手頃なものも。
まずはフランス産から飲もう

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各地の先駆者たちのワイン。右からブルゴーニュ・シャルドネ・ビゴット2000、アルボワ=プピヤン・プルサール、コート・ドーヴェルニュ・ル・コル・アン・コンティニュVdT2001、リースリング・ロット・ミュルレ1998。

 ではどんなヴァン・ナチュールから飲み始めればよいのだろう? なじみのあるフランスワインで考えよう。ガメイというブドウ品種でできたボージョレ・ヌーヴォーなら、一度は口にしたことがあるだろう。実はこのワイン、特別な手法で造られているため、やや人工的ともいえるキャンディーのような甘い香りが強く、味わいもエキスが凝縮されているとは言いがたいものが多い。

 ただ、あまりに有名になってしまったために、ほとんどの人がその甘い香りや軽い味わいがガメイの特徴だと思い込んでいる。自称ワイン通にはガメイやボージョレの名を聞くだけで、小ばかにする輩もいる。

 そういう人たちもヴァン・ナチュールのボージョレを飲めば、その力強い味わいに、抱いてきたガメイのイメージとのギャップに愕然としてしまうに違いない。「ガメイはヴァン・ナチュールの魅力がわかりやすい品種」(勝山さん)。そして何よりもボージョレ地区はヴァン・ナチュール発祥の地でもある。

 ロワール地方のワイン群も、安酒と見なされ虐げられてきた。代表的な白ワイン品種であるソーヴィニョン・ブラン、シュナン・ブランも、シャルドネ人気のおかげで影が薄い。青臭いとか、酸が強いとか、薄いだとか悪口を言われることも多い。ところがロワールの優れた造り手によるヴァン・ナチュールは、贅沢なほどエキスが凝縮され、それでいて繊細な味わいがある。

 もちろん、この二つの産地に加えて、北はアルザス、シャンパーニュから南はラングドック=ルーションまで、フランス各地で、背景もタイプもさまざまな数多くのヴァン・ナチュールの造り手が活躍している。アルボワのような聞きなれない産地にさえ掛け値なしにすばらしいワインが産まれている。

「酸、アルコール、タンニンのいずれかが強いとワイン自体が安定するから、酸が強いシュナン・ブラン、アルコールが強いグルナッシュ、タンニンが強いシラーが向いている。こうした品種のワインから飲み始めるのも手」(大岡さん)。

 そして、うれしいことに、ごくわずかな例外を除いて、いずれも比較的値段が安く、しかもその値段に比して品質は格段に高い。

 最後にヴァン・ナチュールの楽しみ方について。数日前に購入して冷蔵庫に保管する。ロウでフタをしたものがあるが、ロウは注意深くナイフで削り落とせばよい。気泡が気になるなら空気と触れ合うように勢いよくグラスに注ぐ。デカンタがあればそれに移しかえるのも一案だ。ただし、「自然な造りでできたワイン」は飲み方も自然流がいいという説も。初めは気になるかもしれない香りも気泡もいずれは消えてしまうのだから。だが、「空気と出会い初めて真価を発揮する」(渋谷さん)ワインなのは間違いない。

 さあ、あとはワインセラーにヴァン・ナチュールを保管している店を探しにいく。冷蔵庫に1、2本常備すれば、あなたのワインライフが一変するに違いない。

 
 
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