汗と埃とテキーラと

テキーラ

 
 
吉村喜彦 = 文岡倉禎志 = 撮影松涛倶楽部(渋谷) = 協力
 
 
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やや鈍く光る、とろりとした色合いが魅力的なテキーラ。雑味が残っているゆえんだが、その不完全さが旨さに繋がる。

「テキーラは酔い方が違います。ウオツカとテキーラをそれぞれ3杯飲むとして、同じアルコール度数でも酔い方はまったく違うんです」

 友人のバーテンダー・児玉亮治さんは言う。たしかにテキーラで足を取られた経験がある。では、なぜ、テキーラはそれほど酔っ払ってしまうのだろう?

 テキーラはメキシコの特産酒。原料は竜舌蘭。メキシコでは、竜舌蘭からつくられる蒸留酒を一般にメスカルといっているが、ハリスコ州テキーラ町周辺原産の特別品種(アガベ・アスール・テキラーナ種)を原料にしたメスカルだけが、テキーラと名乗ることを許されている。コニャック地方のブランデーだけがコニャックと呼ばれるのと同じことだ。

 メキシコには、スペイン人が侵略する16世紀以前から、竜舌蘭の樹液を発酵させたプルケという醸造酒があったが、スペイン人がもってきた蒸留技術でプルケを蒸留して生まれたのが、メスカルだった。

 現在の製法は、パイナップルを円くして何十倍にもしたような(直径1m、重さ40kg近く)竜舌蘭の球茎を蒸して、甘い液汁を搾り、発酵、蒸留してつくる。

 蒸留は単式蒸留器で2回。アルコール分50?55%にする。最高でも55%と法的に決められているが、この純度の低さ、雑味成分の多さが、テキーラの特徴。

 つまり、あの「酔い」はここに由来する。

 ウオツカはもっと高純度に蒸留し、エチル・アルコールに近くなるよう、雑味やエキスを除き、できるだけきれいに仕上げたスピリッツ。しかし、テキーラはまったく逆なのだ。

「いわば、不純な美味さが、これぞ南のスピリッツ。下半身にググッとくる酒なんです」

 児玉さんが言う。

 1968年、メキシコ・オリンピックが開かれ、世界各国の人々からテキーラは注目を集め、いまや世界4大スピリッツ(ジン、ウオツカ、ラム)の一角を占めるまでになった。その要因は、テキーラ・ベースの美味しいカクテル(マルガリータやテキーラ・サンライズなど)があったことが大きい。

「でも、テキーラは、親指の付け根に盛った塩を舐めつつ、レモン・スライスを囓って、ストレートでグイッと飲る『シューター』というスタイルで、まずは飲んでいただきたいですね」

 生のままのテキーラは竜舌蘭の青くさい匂いと無骨なザラッとした味が、無精ひげを生やした男のようだ。どうしても、映画『ガルシアの首』に出演していたウォーレン・オーツや『荒野の用心棒』のクリント・イーストウッドがイメージされる酒なのだ。何年も熟成させたテキーラよりは、ほとんど熟成もしていない安酒の方がテキーラらしい。

 土埃の道を車で一日走って、カラカラに渇いた喉にはビールよりもテキーラがあっている。砂や埃はビールでは落ちないが、テキーラならするすると落ちていく。

 そうして、何か小さな決心をするときにはテキーラで少し頭を揺さぶっておくのがいい。

『ガルシアの首』では、金のためなら友人も裏切るが、小心者の主人公ウォーレン・オーツは、そういう場面で必ずテキーラを呷っていた。人間くさい汗や埃、そして微かに失敗の匂いのする酒がテキーラなのだ。

 
 
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