明るくかなしみを包む酒
ピンガ

- 世界で1、2位を競う売れゆきのスピリッツ"カシャーサ51"。ひと搾りのライムがさらなる清涼感を呼ぶ。
その土地で生まれた酒を飲みながら、同じ土地の音楽を聴くのは幸せなひととき。レゲエを聴きながらラムを飲み、沖縄のうたを聴きながら泡盛を飲む。そしてなんといっても、ブラジルのサンバを聴きながら飲むピンガが美味い。
ピンガは、サトウキビの搾り汁をそのまま発酵、蒸留したものでブラジル独特の蒸留酒だ。ラムも同じくサトウキビからつくられるが、ピンガは搾り汁に加水しないので、ホワイト・ラムよりも酒質は重い。また、単式蒸留器を使うために蒸留しきれない成分が残り、雑味が多くなる。この雑味の多さがピンガの植物っぽい香りの特徴で、その魅力のひとつになっている。
サンバ、わけても、おじいが歌う枯れたサンバはピンガにあう。リオのサンバ界の巨匠の一人、ギリェルミ・ジ・ブリート(80歳)の声は、けっして派手ではないが、よく熟成したピンガのように心に沁みとおる。90年に初来日した時に、テーブルに置いたピンガをときどき飲みながらくつろいで歌っていた姿が忘れられない。『新しい生命』という曲では「赤ん坊は微笑みではなく涙で人生を始める。幸せになるために、まず悲しまなければならない」と少しかすれた声で歌った。ライブの最後には「いつも別れの時はつらいです」と客との別れを惜しみ、ステージで涙を流した。
透明な酒だが雑味を含んだピンガ、そして、明るいのにせつないメロディーが胸をしめつけるサンバは、翳りを含んだ明るさをもつ人のように魅力的だ。人生はけっしてきれいに直線的に進むのではなく、くねくね曲がりくねった道を、いくら戻りたくても前に進まざるを得ない。そして、出会った人すべてと別れて、あの世に向かう。生命は生まれたときから死に向かっている。生きることは、ほんとうにかなしい(「愛しい」「哀しい」のダブルミーニング)。ピンガとサンバは、そのかなしさを南の風と光で大きく包み込んでいるような気がする。
「ピンガは、いま、欧米でいちばん人気のスピリッツですね。飲み方はほとんどカイ・ピリーニャ。うちの店でも、若い女性から中年男性まで幅広い人気があります。私は、ブラジルから帰国したお客様に『リオはどこに行ったって、カイ・ピリーニャだよ』と言って教わりました。地球の裏側のカクテルが、10年ほど前は人から人に伝わったんですね」
と、友人のバーテンダー・松浦隆二さんは言う。
カイ・ピリーニャは、グラスの中でライムをつぶし、そこに砂糖を少々。よく冷えたピンガを注ぎ、クラッシュ・アイスを入れ、かき混ぜてできあがる。小さな氷をガリガリしながら、食べるように飲むと、これがまた美味い。爽やかに甘酸っぱく、そして青い。
「ラムよりも、少し田舎くさい感じ。土っぽい香りがいいんですね」
ストレートで飲むと、少年の日に河原のスカンポをチューチュー吸いながら、友だちと歩いた夏の日をなぜか思い出す。そういえば、ブラジル人の心の底にある感覚「サウダージ」は、失くしたものを哀惜するせつない気持ちだった。
ちなみに「カイ・ピリーニャ」とは「田舎の小娘」という意味。開高健は、「だから、ひどい二日酔いになる」と意味深に言ったが、はたしてどうか? どうぞお試しあれ。
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