身も心も解き放て

ラム

 
 
吉村喜彦 = 文岡倉禎志 = 撮影バー武蔵(銀座) = 協力
 
 
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土臭いザラリとしたもの、ふくよかで洗練されたものなどタイプはさまざま。優しい甘さが夏の疲れを癒してくれる。

 言葉には「ことだま」という魂が宿るといわれる。だから、モノに名前をつけることには大きな意味あいがある。

 ラムの語源は古い英語「rumbullion(興奮)」の頭の部分「rum」に由来するそうだ。アクアヴィットやウイスキー、オー・ド・ヴィーなどが「生命の水」という哲学的な意味から名づけられたのとは大違い。「酔って興奮する」ことからラムになった。酒の何たるかが直截に表現されている。

 ラムの原料はサトウキビ。カリブ海・西インド諸島で生まれた。17世紀はじめ、バルバドス島に砂糖づくりにやってきたイギリス人が最初のラムをつくったとされる。

 サトウキビの搾り汁を煮つめ、砂糖の結晶を分離。残った糖蜜を水で薄め、発酵、蒸留してつくられる。サトウキビの搾り汁をそのまま水で薄めてつくることもある。ま、このあたり、厳密なルールはない。サトウキビが原料の蒸留酒ならばラムといえる。蒸留後、樽で熟成させてもいいし、させなくてもいい。色もさまざまで、大きく分けるとホワイト、ゴールド、ダークの3タイプだが、どこからどこまでがホワイトで、どこまでゴールドなのか、など厳密なルールはこれまたない。最も系統だった分類は、その島がどこの国の植民地だったか、による味のタイプではないか、と友人のバーテンダー・児玉亮治さんは言う。

「英語でRUM、スペイン語でRON、フランス語でRHUMと書くように、味わいもそれぞれ違うんです。ジャマイカに代表される元イギリス植民地のラムは、雑味分が残ったシングルモルトのようなちょっとヘビーな味。マルティニークに代表されるフランス系は香り高く、洗練されたコニャックに似ています。グアテマラやベネズエラでできるスペイン系は、セクシーで芳醇。グラマーなスペイン美人のよう」

 ラムの源には、ヨーロッパ人のために始まった、カリブでの砂糖づくりがある。それは、甘さの対極にある過酷な歴史を島々に刻印した。ネイティブたちはほとんど全滅させられ、その代わりの労働力としてアフリカから黒人奴隷が連行され、サトウキビ・プランテーションで働かされた。

 象徴的に言えば、ラムにはネイティブ・カリビアンとアフリカの黒人たち、そしてヨーロッパ人の血が混ざっている。甘い砂糖の陰にある苦い歴史がそれぞれのラムに陰影を与えている。が、その影すらも明るい光になってしまいそうなほど、ラムは肉体的・外向的な南方系蒸留酒だ。飲むと踊り出したくなる酒なのだ。上半身よりも下半身を刺激するような開放感。そこには、奴隷たちが求めた自由への熱い思いがこめられているのではないか。

 過日、アフリカから黒人奴隷が上陸したサンティアゴ・デ・クーバ(キューバの古都)近くの村に行った。車なんてほとんどなく、公共の乗り物は馬車だけという村。火曜の昼前なのに、ソンを聴かせる店には男たちが集って酒を飲んで大騒ぎ。ラムを頼むと、空色の大きなポリバケツから柄杓で、ビールの空き缶に並々と注いでくれた。透明な酒とはいいがたい、ちょっと濁ったラム。とても一人で飲みきれる量ではない。ライブが終わり、ラムの入ったビール缶をもって村を歩くと、そこここから仕事もなくぶらぶらしている男たちが「おお、ハポネ! 俺にも一口飲らせてくれ」とやってきた。明るい陽光の下、立ちながら一緒に飲んだラム。汗が入ったのだろうか、ちょっと塩辛いような。そして甘くて苦かった。今まで一番美味かったラムだ。

 
 
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