マティーニ輪廻転生

ジン 2

 
 
吉村喜彦 = 文岡倉禎志 = 撮影松涛倶楽部(渋谷) = 協力
 
 
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限までドライを目指したハードボイルドなマティーニだが、近頃では、果物を使ったりと肩の力が抜けたものも。

 ジンはさまざまなカクテルのベースになるが、そうしたカクテルの中で最も洗練され、かつ魅惑的なもの。それはマティーニだろう。「カクテルの王」ともいわれるが、レシピはジンとヴェルモットだけのシンプルなつくり。そして、それゆえ、たいへん奥が深い。

 ヴェルモットは、白ワインにニガヨモギをはじめ15〜40種ものハーブを配合、さらにスピリッツを加えてつくるフレーバード・ワインの一種。概してイタリアン・ヴェルモットは甘口で、フレンチは辛口だ。

 マティーニの原型は、1850年頃にヨーロッパで飲まれるようになったジン&イット(GIN&IT)だといわれる。常温のジンに常温のヴェルモットを1対1の割合で注ぎ、ステアしてできあがる。イットはITALIANのIT。イタリアン・ヴェルモットを注ぐので、ちょっと甘口のカクテルになり、現在のマティーニとは全く違う味だ。つめたいマティーニが主流だが、当時は製氷機発明以前だったので、常温の、しかもスイートなやわらかいカクテルだった。

「マティーニの歴史は、ドライになっていく歴史だったんです。ドライ化には二つあって、まず一つはヴェルモットのドライ化。ジン&イットで使われた甘口のイタリアン・ヴェルモットがやがて辛口のフレンチにかわっていきます。そしてもう一つは、ジンとヴェルモットの比率。ヴェルモットが少なくなり、どんどんジンに傾いていくんです」

 ジンをことのほか愛すバーテンダー・菊地敏明さんが教えてくれた。

 マティーニは、当初ジンとヴェルモットの比率が3対1だったのが、5対1から10対1へとどんどん辛口になっていった。ヘミングウェイにいたっては15対1のものを好んだとか、チャーチルはドゴールが嫌いだったからフレンチ・ヴェルモットをちらっと見るだけの超ドライを好んだとか、そういう類の逸話には事欠かない。何れにしても「オレは男だ、強いんだ!」というマッチョな神話づくり。

 ドライ化に拍車をかけたのは、製氷機の出現で切れ味鋭いものへの要求に応えられるようになったことが大きいと、菊地さんは言う。

「今は、ボトルごと冷凍庫で冷やしたジンと、冷蔵庫に入れたヴェルモットを使うマティーニしか知らない人が多いですが、それではマティーニの繊細さがわからなくなると思います。常温のジンとヴェルモットを氷を入れたミキシング・グラスでステアしたものとは全然違うんですよ」

 確かに、菊地さんのつくってくれた冷やさないボトルから生まれるマティーニは、ヴェルモットのやわらかい香りが溌剌としていて、ジンの甘みも舌にじんわり染み通ってくる。切れ味をとれば、キンキンに冷やしたものがいいが、どうもそればかりでは硬すぎるような気がする。もっと液体というものはやわらかくていいだろう。

 やはり、そういう志向が80年代後半から、あらわれてきたようで、最近増えているのがフルーツ・マティーニ。フレッシュなフルーツをつぶして、そこにジンを注ぎシェイクする。イチゴ、キウイ、ピーチ、オレンジなど季節のみずみずしいフルーツがフィーチャーされる。けっして男だけがカッコつけて飲む液体でないのがいい。多様化するマティーニは、現代のジェンダー問題を反映していて、とても面白い。もうどっちがドライか、なんていう時代じゃないのです。

 
 
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