編集長メッセージ

勇気や自信を与える! 私が目指すのは、No1のビジネス誌です!

  「プレジデント」編集部には1963年の創刊以来、時を越えて伝えられてきた文化があります。この文化は文書になって引き継がれているのではなく、読者のために精一杯仕事をする編集部員ひとりひとりの体内に沈殿する、腐葉土のようなものです。
 それは何かと申しますと、
一つ、借り物でお茶を濁すことなくオリジナリティを追求すること。
二つ、常識を疑いリアリティを大事にすること。
三つ、最高の表現が見つかるまで自分に妥協せず、言葉に徹底的にこだわること。
 私もずっとこのことを胸にとどめて雑誌をつくってまいりました。
 忘れられない思い出があります。
 デスクになって間もない頃、「決断の瞬間」という特集記事を担当しました。経営トップは会社の方向性を決めるとき何を頼りにしてどう考えたかを詳らかにする取材です。私は当時経営の一線を離れてヤマト福祉財団理事長を務めていた小倉昌男さんのもとを訪れました。テーマは宅配便事業進出。小倉さんには著作やインタビュー記事がたくさんあり、そのビジネス人生は広く知られるところでありました。ですから80歳のお体を案じて早々にお話を切り上げても、わかっている事実を繋げて整理すれば原稿はできました。しかしインタビューが約束の1時間に近づいたとき、心に迫る新事実が語られ始めました。
「これまで誰にも話しませんでしたが、あのとき実は、『茶断ち』しましてね……。宅急便には役員全員が反対でした。会社がつぶれるかもしれないというときで、黒字達成という大願成就のその日までお茶を飲むまいと、『茶断ち』を始めたのです。訪問先でお茶を出されても、さりげなく『ありがとうございます』と言って飲まずにいるのですが、すると案外相手は気づいて怪訝な顔をされたものです。それでも黙ってごまかしてきました」
 口調は淡々としていましたが、話に引き込まれ時間を忘れました。
「初日は散々な結果に終わり、取扱量はわずか11個。1カ月では9000個足らずしかありません。心細い限りだったのですが、『サービスを最優先にしてくれ。そうすれば必ず荷物が増える』と号令をかけ続けたのです。5年目の営業会議の席でした。取り扱い個数が3340万個にのぼり、国鉄小荷物と肩を並べたと報告がありました。私は目の前に出された茶碗を手に取り、そっと緑茶を口につけました。損益分岐点を超えたのです。今もそのときのお茶の味を忘れられません――」
 ビジネスリーダーの心の内というのはそれほど余人に知れぬものなのか、成功するにはいかに鉄の信念、覚悟が欠かせないか、ひしひしと伝わってまいりました。
 今、世界は100年に1度の大転換期を迎えています。経済の常識が通用しなくなり、この先どうなるかと多くの人たちが不安を抱えていることでしょう。しかしどんな時代になろうとも、ビジネスマンの揺ぎない志には普遍的な価値があります。
 編集部一同、果たすべきプレジデント誌の役割を次のように考えています。
(1)ビジネスマンに勇気や自信を与えるナビゲーターになること。
(2)新しい時代に切り込むための哲学や働き方、生き方の方向性を示すこと。
(3)世の中の変化や時代の波頭をシャープに切り取り、その本質を伝えること。
 私たちはこの使命感をもって雑誌づくりに取り組み、弊誌読者のなかから新時代を創造するイノベーターや、時流に棹差し正しい方向に導くリーダーが登場してくることを願ってやみません。
 そのために弊誌は、ビジネスマン一人ひとりの課題、問題の本質を探り当て、日々の判断・行動の助けになるような記事を提供してまいります。オリジナリティはあるか、リアリティはあるか、表現に悔いはないか、編集部員全員が繰り返し自問自答して記事をブラッシュアップし、驚きと発見に満ち満ちた誌面づくりに挑戦してまいります。
今後も変わらぬご支援をよろしくお願い申し上げます。